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東京地方裁判所 昭和60年(ミ)2号 決定

主文

本件申立を棄却する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

第一申立

一申立の趣旨

被申立人総武通商株式会社(以下「総武通商」という。)につき、更生手続を開始する。

二申立の理由の要旨

1  申立人は、被申立人総武通商に対し、その資本の額四億円の一〇分の一以上に当たる一一八億九八五八万円の貸金債権を有し、手形割引、外国為替債務保証を含めれば一三七億一三六三万円の債権を有する債権者である。

2  総武通商は、木材、宝石類、水産物及びこれらの製品等の物品の売買並びに輸出入を業としているが、昭和四三年八月一九日、商号株式会社ニューキャッスル、資本の額一〇〇〇万円の株式会社として設立された後、昭和四五年七月に総武足立物産株式会社、昭和四八年五月に総武株式会社、昭和五〇年九月に総武通商株式会社とそれぞれ商号を変更し、またその間順次増資を重ね、現在の発行済株式の総数は八〇万株、資本の額は四億円となつている。

総武通商は、パプアニューギニア政府から、昭和四八年六月に森林伐採許可を、昭和五一年三月にパプア湾での漁業操業許可をそれぞれ得て、パプアニューギニア地域等からの木材、宝石、エビ等の海産物の輸入販売及びコーヒー、建設資材等の国内取引を営んできたものであるが、オイルショック以降の木材不況及び民族主義の高揚による右地域における事業の規制により、急速に業績が悪化したため、昭和五八年七月、販売部門を業種別に分離独立させることとし、総武ランバー株式会社、総武食品株式会社、総武機材センター株式会社(以下「総武ランバー、総武食品、総武機材センター」という。)を設立したものの、業績は好転することなく現在に至つた。

3  総武通商は、昭和六〇年三月三一日現在において、七〇億〇一三三万円の債務超過(なお、このほか二一六億六七〇〇万円の連帯保証債務を負つており、うち一一一億六〇〇〇万円の債務が顕在化する可能性が高い。)であり、また、申立人に対する手形金債務三七億三三三一万円のほか、申立人の保証にかかる債務七七億七一六七万円を負担している。他方、その弁済財源として現金一〇四万円のほか、銀行預金として八億六七〇七万円を有しているものの、右預金から借入金の担保とされている分を控除した預金残額と右現金との合計額は三七八九万円に過ぎず、また、総武通商の資産である売掛金、未収金、貸付金を早期に回収することも困難であつて、事業の継続に著しい支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済することができない状態にある。

4  しかしながら、総武通商は、更生会社となり、管財人と経営陣に適切な人材を得て、金利棚上げ措置と資金援助を受けたうえ、次のような計画案を実行することにより、別表(1)のとおり、昭和七四年までに剰余金一七〇億三六〇〇万円(但し、税引前)及び減価償却分三億八三〇〇万円を弁済の財源とすることができるから、更生の見込みがあるというべきである。

(一) 貿易事業について

従来総武ランバー、総武食品、総武機材センターがそれぞれ独自に商品を仕入れていた流通経路を一本化し、総武通商が右三社にかわつて商品の仕入れを行うように改め、これを右三社に販売すると共に、収益の高い商品を取扱い、販売管理費を削減すること等により、別表(1)の商社部門欄記載のとおり、昭和七四年までに二二億六三〇〇万円の税引前利益を取得することができる。

(二) (仮称)垂水ニュータウン宅地造成事業について

右事業は、総武通商が、自己の申立人に対する債務の物上保証人となつている株式会社太平洋クラブと提携して、右担保の対象となつている神戸市垂水区の土地を宅地に造成し、販売することを内容とするものであり、別表(1)の宅造部門欄記載のとおり、昭和七二年までに六三億〇四〇〇万円の税引前利益を取得することができる。

なお、右地域については、既にゴルフ場としての開発許可を得ており、仮に、株式会社太平洋クラブから引き継いで総武通商がゴルフ場事業を行つた場合には、三二億七六〇〇万円の税引前利益を取得することができる。

(三) (仮称)富津ゴルフ倶楽部建設事業について

右事業は、千葉県住宅供給公社が保有する千葉県富津市大佐和地区約九八ヘクタールの土地を昭和実業株式会社において買い受け、同社名義でゴルフ場開設に必要な開発許可を取得したうえ、総武通商がその地位を承継してゴルフ場経営事業を行うものであり、別表(1)の富津ゴルフ場欄記載のとおり、昭和六三年六月までに三〇億六八〇〇万円の税引前利益を取得することができる。

(四) 新星興業株式会社ほか二社との合併について

総武通商が株式を保有している新星興業株式会社、緑総業株式会社及び明晃株式会社(以下「新星興業、緑総業、明晃」という。)と合併をすることにより、右三社が保有する不動産を取得し、一方では、右不動産の賃貸人たる地位を承継することにより経常的に収益を確保すると共に、他方では、その不動産の一部を適時に処分して利益を上げることを目的とするものであつて、別表(1)の不動産管理欄及び資産売却欄記載のとおり、不動産管理(賃料収入)により昭和七四年までに一六億四五〇〇万円、不動産売却により昭和六四年七月までに九三億三七〇〇万円の税引前利益を取得することができる。ただし、総武通商が新星興業ほか二社を合併することにより承継する右三社の負債合計五五億八一〇〇万円を右利益によつて弁済しなければならず、結局取得できる利益は、合計五四億〇一〇〇万円となる。

第二当裁判所の判断

一本件疎明書類、総武通商の代表取締役岡崎寅雄の審尋の結果及びその他関係者の意見の聴取等当裁判所の調査の結果を総合すると、申立の理由の要旨1ないし3の事実が認められる。

したがつて、総武通商については、会社更生法三〇条の更生手続開始の申立要件が備わつているということができる。

二そこで、総武通商の更生の見込みについて判断する。

1  疎甲第一一号証及び総武通商の代表取締役岡崎寅雄の審尋の結果によれば、総武通商の負債総額は、一九五億九三一六万円であり、事業継続を前提として試算した一応の資産総額は五六億九一八〇万円である。ところで、一般に、債権者は、少なくとも債務者所有の資産に見合う債権額の配当を期待するものと考えられるので、本件においても、右資産総額五六億九一八〇万円に見合う額の範囲で債権の弁済をすることとし、その余の債権の免除を受けるものと仮定した場合、それだけの額の返済が実行できるか否かが更生の見込みを判断するうえで重要なポイントとなるから、この点について検討する。

2  本件の場合には、右債権額の返済は、事業収益及び不動産売却益によるべきところ、税引前利益に対する今後の法人税等の税負担の合計は五〇パーセントを下廻ることはないから、更生手続を遂行するためには、少なくとも資産総額の倍額である一一三億円の税引前利益を獲得することが必要となる。

そこで、以下申立人の主張する事業計画について順次検討を加える。

(一) 貿易事業について

申立人は、総武通商の今後の売上高及び税引前利益の推移について別表(2)のとおりの計画案を提示するので、以下その遂行可能性を吟味する。

第一に、過去の営業実績と対比するに、右計画案は、総武通商と総武ランバー、総武食品、総武機材との商品等の仕入れを一本化する構想に基づくものであるから、総武通商が右三社を分離する前の営業実績について見る必要があるが、昭和五四年八月から昭和五八年七月までの四事業年度のそれは、疎甲第九号証によれば、別表(3)のとおりである。これによれば、総武通商は、右の事業年度において経常損益の段階で損失を出していることが明らかであり、また、総武通商の代表取締役岡崎寅雄の審尋の結果によれば、総武通商は、過去において経常損益の段階で利益を出したことは一度もないことが認められる。そうだとすると、総武通商の行う事業の収益力は、過去の実績をみる限り、かなり低いものといわざるを得ず、仮に更生手続が開始されて事業経営が合理化されたとしても、事業自体の収益性に大差がない以上、別表(2)のとおりの利益を計上することは極めて困難であると認められる。

第二に、疎乙第三三、第三七、第三九号証によれば、国際協力事業団、財団法人海外漁業協力財団及び海外経済協力基金は、本件更生申立てがあつたことを理由として、総武通商に対し、貸付金の即時弁済を請求したことが認められるが、本件申立てにより商社の生命ともいうべき信用が著しく毀損されたことは一般論として否定しがたく、現に、総武通商の代表取締役岡崎寅雄の審尋の結果によれば、総武通商の営業は事実上停止状態にあることが認められる。

第三に、事業の将来性について検討するに、疎乙第六〇号証によれば、パプアニューギニア材の輸入販売事業の今後の見通しは極めて厳しいものと窺われるので、将来の事業展開は楽観を許されない情勢にある。

以上のとおり、申立人の計画案は、机上の計算値に過ぎず、その遂行可能性には多大の疑問があるというほかない。

(二) (仮称)垂水ニュータウン宅地造成事業について

申立人が右事業を計画する対象地域は、神戸市垂水区伊川谷町前開地区に所在する総面積一〇八万三九六五平方メートルの地域であつて、市街化調整区域に属しており(疎甲第二八号証、第三五ないし第三七号証によりこれを認める。)、右計画案が実現可能であるというためには、都市計画法二九条、八七条二項に基づく神戸市長の開発許可を取得できる見込みがあることが必要不可欠であり、そのためには、同法三四条一〇号イの要件を具備しうることが前提となるが、本件全疎明資料によるも右要件を具備しうる現実的な可能性があるとは到底認められないし、かえつて、疎乙第一六、第五七、第五八号証によれば、右地域が市街化調整区域である限り、宅地開発を行えないとの見通しが強く、かつ、疎乙第一七号証によれば、近い将来右地域が市街化区域に編入される可能性も少ないことが認められる。

以上の次第であるから、右事業は、事業化の可能性がなく、その利益を総武通商の弁済源資として考慮することは相当でない。

なお、申立人は、右地域において総武通商がゴルフ場事業を営む計画を副次的に提案するようであるが、疎乙第六五号証に示されるように手続的、内容的な問題点があり、右事業が遂行可能であることを認めるに足りる疎明資料はない。

(三) (仮称)富津ゴルフ倶楽部建設事業について

疎甲第二九、第三九号証、疎乙第二一ないし第二四号証によれば、右事業の予定地域は、千葉県富津市大佐和地区所在の約九八ヘクタールの地域であり、都市計画区域内にあつて未だ都市計画法七条の区分のされていない区域(以下「未指定区域」という。)であること、千葉県においては、ゴルフ場を開設するため都市計画法二九条等に基づく開発許可の申請があつた場合の処理につき、「ゴルフ場等の開発事業に関する指導要綱」「千葉県におけるゴルフ場開発計画の取扱い方針について」(以下「取扱い方針」という。)が定められていること、これによれば、申請者は、千葉県知事と事前協議をしなければならないが、昭和四九年六月一日以降、千葉県は、ゴルフ場開発行為の事前協議の新規受付をしない旨の内部決定をしていたこと、しかしながら、昭和五九年四月一日以降は右規制を緩和し、新設のゴルフ場開発計画については、保健、レクリエーション地区としての土地利用の増進、雇用機会の拡大、その他地域の振興又は発展に著しく寄与するものと認められ、市町村及び地元住民から積極的かつ強力な要請があるものであつて、一定の要件を具備するものについては、協議の対象とすることとし、その要件の一つとして、富津市については、当該ゴルフ場開発予定地が都市計画区域内の未指定区域である場合には、右予定地の面積が取扱い方針第四の3本文にいうところの同市の「その他都市計画区域」の面積一九七四ヘクタールの一〇〇分の一即ち一九・七四ヘクタールを超えないことが要求されていることが認められる。取扱い方針第四の3本文の解釈について右と異なる内容の疎甲第六三、第六四号証は、疎乙第六四号証に照らして信用できない。

また、取扱い方針第四の3但書において、過疎地域振興特別措置法の適用を受ける市町村及びこれに準ずると認められる市町村にあつては、ゴルフ場開発計画の必要性及び地域における土地利用の状況等を勘案して別に協議することができることともされているが、富津市大佐和地区について右但書が適用されるとはたやすく認めがたい(疎乙第五六号証参照)。

したがつて、右事業については、取扱い方針が要求する面積制限の規則の適用を受けることが明らかであるから、右事業のための開発許可申請について事前協議が受け付けられることはきわめて疑問であるのみならず、疎乙第四二号証によれば、事前協議に入るための前提となる富津市及び地元住民からの積極的かつ強力な要請が存する状況にはないと認められるから、申立人の計画案が実行できる現実的可能性は乏しいというほかない。

以上の次第であるから、右事業も事業化の可能性がなく、その利益を総武通商の弁済源資として考慮することは相当でない。

(四) 新星興業ほか二社との合併について

(1) 資産売却について

この計画案は、他の事業計画案と比べれば難が少ないが、疎甲第四九、第五〇、第六〇、第六一号証、疎乙第五一ないし第五四号証によれば、売却予定の不動産の時価は、現時点においては、申立人の主張する価格より少なくとも八億九五〇〇万円低額であることが認められるから、果して申立人の主張する価格で売却できるか否かについては疑問なしとしない。

(2) 不動産管理について

資料三六によれば、合併対象三社の昭和五九年決算期の営業実績については、年間合計五億四〇〇〇万円に上る金利負担があるため経常損益の段階でいずれも損失となつている(三社合計で三億二一〇〇万円の損失)こと(なお、資料三〇における昭和六〇年三月末の試算は、右三者の昭和五九年決算期の営業実績の合計である。)が認められる。また、疎乙第四七号証によれば、総武通商側の試算(営業収入及び経費の算定に当たつては、資料三〇の昭和六〇年三月末の試算による数値を基準とし、家賃収入及び受取共益費については年五パーセントの増加を、一般管理費については人件費年四パーセント、その他経費二パーセントの増加を、並びに合併対象三社の金利負担については、右(1)のとおり不動産売却による余剰金を弁済充当することによつて減少する借入金額に対し年一八パーセントの割合の金利分が節減できることをそれぞれ見込んでいる。)による不動産管理事業の剰余金は、合計七億三三〇〇万円にしかならないことが認められる。

以上の事実を考慮すると、申立人の提示にかかる計画案の遂行可能性については疑問の余地がある。

3 以上検討したとおり、(仮称)垂水ニュータウン宅地造成事業及び(仮称)富津ゴルフ倶楽部建設事業については、その事業化の可能性がないし、貿易事業については、収益を上げる見込みがないといわざるを得ない。

また、その余の事業計画の遂行可能性についても多分に疑問なしとしないが、仮に、合併による賃料収入及び不動産売却により申立人の計画案どおりの利益をそれぞれ取得できるとしても、その合計は、五四億〇一〇〇万円にとどまり、更生手続を遂行するために必要な額一一三億円には到底及ばず、これは破産をした場合における一応の予想配当財源七九億八三〇〇万円(疎甲第五七号証の一)にすら及ばない。したがつて、本件は結局更生の見込みはないと判断するほかない。

三よつて、本件申立は、会社更生法三八条五号に該当するからこれを棄却することとし、申立費用の負担につき、同法八条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官藤井正雄 裁判官高柳輝雄 裁判官長 秀之)

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